平成21年度 JBAオープン・セミナー(東京 第1回)
「生物多様性条約COP10名古屋に向けた最新状況と海外の遺伝資源へアクセスする際の国際ルール」


 生物多様性条約(CBD、1993年発効)は、2010年、名古屋開催の第10回締約国会議(COP10)において節目の年を迎える。COP10の最重要テーマの1つとなる「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」については、COP10までに3回の作業部会(第7〜9回)を開催し、ABSに関する「国際的制度(IR)」の内容を交渉することになっている。各国の利害関係者はこの国際交渉に向けて準備を進めているところである。

 このような状況下、2009年7月22日、JBAはJBA会議室において、標記オープン・セミナーを開催し、本年4月にパリにて開催された第7回作業部会の結果、及び我が国の政策と議論の最新状況を報告した。また、CBDの認知度向上に伴い、ニーズを増しているCBDを遵守した海外遺伝資源アクセス情報と留意点、JBAの支援等について説明した。

 作田室長(講演1)は、CBDの概要、COP10開催概要、ABSをめぐる議論の経緯、ABSに対する我が国の基本的立場を解説し、第7回作業部会の結果を報告した。第7回作業部会は、COP9決定のロードマップに従いIRの中味を議論したことで、これまでの「法的拘束力」の有無ばかりを議論するという入り口論から大きく前進したと言えよう。また、具体案を提示したEUとこれに反発する途上国(特にブラジル、メガ多様性同志国家グループ代表)との対立が鮮明になった。今次会合では、今後の交渉のベースとなるオペレーショナルテキストを作成したが、多数のブラケットが付き、意見の相違が明確化された。EUは、「遺伝資源提供国側がアクセスについての一定基準を設定するのであれば、法的拘束力のある遵守措置についても検討可能」と表明したが、これに対し、提供国側はアクセスに関する権限は条約上資源提供国の主権的権利であると反発した。
今後の交渉は残る2回の作業部会に委ねられるが、決着次第では、我が国としても対応が必要となる可能性のある論点として、①遵守、②ABS国内法、③セクター別のモデル条項、を挙げ説明した。

 藪崎(講演2)は、CBD第15条やボン・ガイドラインの重要ポイントを示し、海外遺伝資源へのアクセスに関する国際ルールを解説した。また、バイオパイラシー問題について注意を喚起し、法律上のトラブルや社会的非難に遭遇しないようにするために、我が国の作成したガイドブックで「遺伝資源へのアクセス手引」を解説した。さらに、JBAが実施している海外遺伝資源アクセスを支援する活動を紹介した。

 総合討論での質疑応答は以下のとおりである。

 ①ABS国内法の制定が視野に入ってきたという印象だが、日本での方向性は何か、どのようなことがポイントとなるか、また先進国でのABS法制定のポイントは何か?(回答)我が国はこれまで自由なアクセスという立場であった。そこで、既に制定したオーストラリアなど先進国の情報を集め、検討していきたい。中央政府対地方自治体というポイントもあり得るかもしれない。
 ②アクセスは基本的には提供側は国、申請側は民間企業というバイラテラルな交渉である。企業が相手側政府から過大の期待を要求される可能性もある。このようなことに対し、国対国レベルで仕組みを作るというアイディアはないか?(回答)交渉の場ではおのずと強弱が出てくる。対策としてEUの提案する国際アクセス標準がある。セクターごとに考えた受け入れ可能な基準である。我が国の製品評価技術基盤機構(NITE)が東南アジア諸国と連携してきた方式は国対国レベルの仕組みの一つの雛形と考えている。
 ③COP10名古屋のホスト国として、また、他省庁と連携して進めていきたいというポイント、アイディアがあったら教えて欲しい。(回答)COP9で「セクター別のモデル条項」の検討という議論が出てきた。これについては、省庁間で議論していきたい。現状ではまだ明確な提案はない。
 ④世界の各交渉グループは一枚岩ではないのか? 米国は締約国ではないのか?(回答)JUSCANZグループについて説明する:ノルウエーはABS国内法を作った国としてのポジションをしっかり持っている。オーストラリアやニュージーランドの現政権は環境派で、産業界よりの対応は今取りにくいようだ。米国はJUSCANZに属しているが、締約国ではなくオブザーバーとして出席している。
 ⑤「遺伝資源」は具体的に何なのかイメージしにくい。現状ではすべての遺伝子に関することと理解してよいのか?(回答)交渉の場では発言者それぞれが違うことを発言している。途上国側は生物資源にまでその範囲を広げている。一方、先進国は遺伝資源に限定している。実際のABS契約は、CBDの交渉とは違うので、アクセスする国に国内法があれば、それに従えばよい。
 ⑥我が社はボン・ガイドラインに従ってアクセス事業を進めているところである。もし、日本のABS国内法ができた場合、困ることが起こらないようにして欲しい。また、特許で微生物を寄託した場合、誰でも寄託菌株を入手することが可能である。これは、特許記載事項の確認をするために寄託菌株を使用するのだが、実際に何をしているのかトレースできない。これに対し、提供国はどのように考えているのか?(回答)交渉の場では、そこまで細かい話は出てきていない。
 ⑦CBD発効以前に収集した遺伝資源に対してもIRは適用されるのか?(回答)まずはCBD発効以降の遺伝資源に対して適用される。新たな枠組みができた場合には、それ以降と考えるのが法律上の定義であると思う。遡って適用せよと主張する途上国もある。これは政治的なissueと考えた方がわかりやすい。
以上

発表資料:
  1.  1.経済産業省発表資料「生物多様性条約とABSの議論について」
  2.  2.JBA発表資料「海外遺伝資源の利用の際のアクセス情報とJBAの支援活動」

 

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