CBD/ABSセミナー
「ポスト2020生物多様性枠組み第3回公開ワーキンググループ報告会」」


日 時 :2021年10月29日(金) 16:00~17:30
場 所 :ZOOMウェビナーによるリアルタイム配信


プログラム

16:00~16:05
開会挨拶
諏訪部和幸 氏(経済産業省 商務・サービスグループ 生物化学産業課 生物多様性・生物兵器対策室長)
16:05~16:50
「ポスト2020生物多様性枠組概要とOEWG-3の内容」
大澤隆文 氏(環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性戦略推進室)
16:50~17:20
「遺伝資源に関連するデジタル配列情報」
市原準二((一財)バイオインダストリー協会 生物資源総合研究所)
17:20~17:30
全体質疑
17:30
閉会

現在、生物多様性条約(CBD)の下で、2010年に採択された愛知目標の後継である次の10年の生物多様性の目標「ポスト2020生物多様性枠組み(ポスト2020GBF)」について検討がなされている。この目標には条約の3つの目標(①生物多様性の保全、②その構成要素の持続可能な利用、③遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分)が組み込まれているが、③においては、特に生物多様性条約第14回締約国会議(COP14)で結び付けられた遺伝資源の利用から生じたデジタル配列情報(DSI)の利用について議論が続けられている。
当該枠組みは、本来であれば、2020年10月に中国・昆明で開催される予定だった生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択されるはずだったが、新型コロナウィルスの影響で1年延期された上、2021年の10月11~15日の第1部からと、来年の第2部の2パートに分かれての開催となった。第1部では予算の延長、昆明宣言の採択などが扱われ、ポスト2020GBFを含む主要議題は第2部の対面交渉で取り上げられることになっている。
COP15第2部でのポスト2020GBFの採択に向けて勧告案を策定する会合が「生物多様性枠組み公開作業部会」である。その第3回会合(The 3rd meeting of OPEN-ENDED WORKING GROUP ON THE POST-2020 GLOBAL BIODIVERSITY FRAMEWORK: OEWG-3)が8月23日~9月3日に掛けてオンラインで開催された。
本セミナーではその内容の内、「ポスト2020生物多様性枠組み」と「デジタル配列情報(DSI)」について説明を行った。

1. 講演要旨:

大澤隆文 氏(環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性戦略推進室)

世界の生物多様性保全については様々なフォーラムがあるが、CBDにおいては2019年ごろから、愛知目標の後継について、地域ごとの会合、次に公開作業部会、更にCBDの諮問会合(SBIやSBSTTA)等様々な会合を通じて検討されてきている。COP15の第1部のハイレベルセグメントでも一部が話し合われたが、枠組み自体は、COP15第2部での採択に向け、公開作業部で勧告案を策定中である。
2021年8月に開催されたOEWG-3(Part1)はオンラインで開催され、全体会合以外は、議題毎にコンタクトグループ(CG)に分かれて進行役である各グループのCo-leadsによって進められた。主に、勧告案のファーストドラフトが公表され各国が意見を出した。すべてのグループにおいて交渉は進まず、議論の収斂はみられていない。よって、今回の成果は主にCo-leadsのレポートである。そのような事情により、ポスト2020GBFについては、ドラフトを更新してもファーストドラフトとの違いが想定できないことから、1月に予定されている対面会合の前にセカンドドラフトが出てくるかは未定である。尚、次の対面会合は2021年5~6月にオンラインで開催されたSBIとSBSTTAについても同時開催されることになっている。
現在のファーストドラフトにおいては、ポスト2020GBFは、2050年までの4つの目標とその目標に付随する2030年までのマイルストーン、そして2030年までの目標及び取り組みである21個のターゲットがある。
アクセスと利益配分(ABS)は、ゴールCとターゲット13に記述がある。ABSについては今のところ具体的な数値目標は示されていないが、今回のGBFの特徴として、ゴールAの遺伝的多様性を90%維持や、ターゲット3の30 by 30(サーティバイサーティ:2030年までに陸・海域の30%を保護地域とする目標)など具体的に数値を記している事が挙げられる。
また、ターゲットについてのヘッドライン指標が示されておりもし合意されれば、今後各国のモニタリング(及び報告)の対象となってくることが予想される。
OEWG-3をまとめると、大きな論点は、30 by30、資源動員、ABSがある。
30 by 30については中国(OEWG-3では意見表明なし)をはじめとし、いくつかの途上国は慎重な対応もしくは反対を表明している。
資源動員については、具体的な数値目標については概ね先進国は反対もしくは慎重な対応をしている一方、増額を求める途上国側からは、GDPの1%という数値目標の設定や新規基金の設置などを意見がある。
ABSについては、先進国は利益配分の増加を目標とするのではなく、配分された利益がいかに保全に活用されるか、それが重要と意見を述べている。他方、中国及び多くの途上国は塩基配列情報を利益配分の対象に入れるべき、更には名古屋議定書第10条の地球規模多国間利益配分メカニズムを含む利益配分メカニズムを設置すべし、との主張をしている。
いずれにせよ、保全の目標は総意だが、詳細については目標、数字等の根拠や実施可能性、実現性、政治的視点等の課題を述べており、ファーストドラフト以前の0.2次ドラフトからは進捗があったものの、まだ議論が必要な段階である。

市原準二 (一財)バイオインダストリー協会 生物資源総合研究所

1993年12月29日に発効した生物多様性条約には3つの目標があり、「生物多様性の保全」、「その構成要素の持続可能な利用」、3番目として経済的な側面を持つ「遺伝の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(資源のアクセスと利益配分(ABS))がある。DSIは特に3つめの目的に関係あるとして、ABSの文脈での議論となっている。
ABSの原則は第15条に記載されており、1つは事前の情報に基づく同意(Prior Informed Consent:PIC、いわゆる許可)によって入手すること、もう一つは、遺伝資源の利用から生ずる利益は、当事者間で締結する相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms:MAT、いわゆる契約)によって公正かつ衡平に配分することである。
尚、DSIは、正式な用語ではなく、仮の用語として交渉上は取り扱われており、本セミナーでは遺伝子もしくはゲノムの配列情報と考えて頂きたい。

課題となっている「遺伝資源」は、先に述べた既存のABSの枠組においては、遺伝資源の取得の際に国内法または契約によって扱いを定めてきた。しかし、現在議論されているのは、その枠組を超えて、提供国の遺伝資源へのアクセスに基づかず既に公共等のデータベースに乗っている「配列情報」を利用した場合に、その情報の元となった生物資源の原産国(この場合の原産国は、生物学的なものかCBD上の原産国なのかは議論されていない)に利益配分を実施する、という事なのである。つまり、公共データベース等に乗っている配列のすべて(過去に蓄積されているデータ、南極、非締約国、ヒト遺伝資源、生化学物質)が議論の範囲に含まれている。
これまでのDSIの議論の経緯は、2010年頃にCBDで合成生物学の議論が始まり、2014年にマダガスカルのバニラ農家が合成生物学の結果で得られたバニリンによって収益が得られなくなっているという主張がなされ、それがABSの方に派生して、2016年のCOP13中にあらゆる議題でDSIの利益配分の主張をする国があった結果、正式な議題として取り上げられることになった。2018年のSBSTTAでDSIを仮の用語とすることとが提案され、同年のCOP14 で決定14/20が採択された。決定20の主たる内容は、1)コンセプトの明確化、2)技術支援の必要性、3)利益分の見解の隔たりを解消するための作業であり、3)では、締約国その他からの見解及び情報の提出、およびピア・レビュー付の「DSIのコンセプト・スコープ・利用状況/トレーサビリティ/DSIのデータベース、DSIを扱う国内措置」に関する委託調査の実施、更に、決定では、前述の作業の成果を拡大AHTEGで検討し、その助言をポスト2020生物多様性枠組みのワーキンググループで検討し、勧告案を策定、最終的に2020年の10月にCOP15に持ち込まれて議論されることが含まれていた。
しかし、新型コロナウィルスの影響で、拡大AHTEGは2020年の3月にオンラインに変更して開催され、DSIのコンセプトについて議論が行われ4つのグループに分類された。すなわち、①:DNA/RNAの配列情報、②:①+タンパク質、③:②+代謝物、④:③+関連する(鳴き声や生態などの)情報、である。先進国は①を、開発途上国は④を好選している。
拡大AHTEGの後も対面式会合が開催できないために、各ウェビナーなどは非公式に開催されているものの、公式な会合がなかなか開催できないでいた。そのような経緯の元、オンライン上の会合として8/23~9/3にOEWG-3が開催された。当該会合は久々の公式会合ではあるが、オンラインの限界から議論を収斂させていくことが難しいため、予め、交渉ではなく意見徴収に留まることがアナウンスされた。
OEWG-3のメイン議題は、ポスト2020GBFとDSIで、全体会合は3回とそれぞれの議題に特化し会合(コンタクトグループ:CG)がもたれ、DSIのCGは計3回開催された。
意見徴収の結果の一つとして、Co-leadsによる印象をまとめた潜在的な収斂点と相違点についての文書が作成された。収斂できそうな点としては、DSIの重要性と生物多様性保全と持続可能な利用への貢献と公共データベースへのオープンアクセス、DSIの利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分、DSIに関する能力構築の必要性、ポスト2020GBFへの反映、等があり、明らかな相違点としては、オープンアクセスの解釈、利益配分の方法、等が挙げられた。ただし、あくまでもCo-leadsの資格で、個人的な印象に基づき作成されたため、議論参加者のコンセンサスを取るような性質ではなく、スイス、日本、韓国が言及したDSIがCBDの枠組の中か外か、DSIの定義等の相違点については言及されていない。(日本政府は、DSIは無体物であり遺伝資源の定義には含まれないためCBDの枠外だが、既存のABSの枠組である契約の中で扱えると主張している)
結果として、OEWG-3 では、次の成果を得た。

①.
Co-leadsの印象としての収斂点と相違点
②.
交渉しておらず各国の意見が並記されたCRP.1(Conference Room Paper:会議室文書)
③.
DSI利益配分の方法論(approach, policy options, modalities)に関して、OEWG-3 part2 に向けた各国見解の提出要請(ただし、現状のCBD、名古屋議定書に基づかないもの含む)
④.
非公式アドバイザリーグループの設置し、次回のジュネーブでのOEWG-3 Part2に向けて③の資料を反映し、政策オプションの検討を深め、議論の助けになるような作業を行う。

最後に、今のDSIの議論が、ABSの枠を超えた遺伝資源情報の扱いについて議論していること、今まで世に出ている様々な利益配分方法論をまとめた概念が「政策オプション」として、CBDの非公式まとめられていたが、それが今回の会合で取り上げられ、公式な議論の土台として上がってきた。これらは④非公式アドバイザリーグループで検討されて、OEWG-3のPart2に提出される。現在の政策オプションは次の通り。

オプション0:
現状のまま
オプション1:
DSIをCBDの枠内に入れる
オプション2:
国内・国際的なレベルで共通の契約を策定
オプション3:
データベースアクセス時やDSIの利用時に金銭が発生
オプション4:
能力構築
オプション5:
DSIの利益配分をやめる
オプション6:
データの利用に関係なく、先進国でのバイオ関連製品の売上げの1%の使用を基金に入れ、開発途上国や先住民等に保全の資金として配分する。(アフリカ案)

現状の制限のない、自由なアクセスが阻害されると、研究・開発やイノベーションを阻害する可能性があるので、議論の行方を注視していく。

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