CBD/ABSセミナー
「生物多様性条約/名古屋議定書を巡る議論の現状と動向」
 〜「利益配分」をキーワードとした、いくつかの話題提供〜


日 時 :平成28年7月22日(金) 15:00〜17:15
場 所 :JBA会議室


プログラム

  1. EUにおける名古屋議定書実施状況 -H27年度委託調査を基に-
    JBA 井上 歩 
  2. 名古屋議定書第10条「地球規模の多国間利益配分の仕組み」に関する議論の動向
    JBA 井上 歩 
  3. 生物多様性条約での合成生物学の議論
    -第20回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA20)での議論を中心に-
    NITE 藤田信之 
  4. 国連海洋法条約の下での海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する議論の動向
    -国連海洋法条約の下での国家管轄圏外海域の海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する法的拘束力のある国際文書の策定に関する第1回準備委員会-
    JBA 野崎恵子 


内容:

1.「EUにおける名古屋議定書実施状況 -H27年度委託調査を基に-」
冒頭、JBA井上から、セミナー全体を通し聴講者の理解を助けるため、生物多様性条約とABSの基本、名古屋議定書の概要等を説明した。さらに、EU規則の骨子を解説し、H27年度の報告(2015年10月30日)以降のEU域内遵守措置の実施状況等について紹介した。
 EU規則の下には実施のための細則である委員会実施規則(Implementing Regulations)(2015年10月13日採択)があること、EU規則や実施規則の理解や実施を助けるためのガイダンス文書作成のため、諮問フォーラム(コンサルテーション・フォーラム)やABS専門家グループ会合が開催されたことやその作成状況、コレクション登録簿への登録状況、ベスト・プラクティスの作成状況、EU加盟各国の動向等を紹介した。
 最後に、2015年10月12日に全面的に適用開始となったEU規則ではあるが、現在も引き続きそれらへの対応や実施に向けての準備が進められている状況であることを結びとした。
 
2.「名古屋議定書第10条「地球規模の多国間利益配分の仕組み」に関する議論の動向」
 引き続きJBA井上から、名古屋議定書第10条「地球規模の多国間利益配分の仕組み」(Global Multilateral Benefit-sharing Mechanism: GMBSM)について解説した。GMBSMは、名古屋議定書の交渉の最終段階でアフリカ地域グループの提案を元に突如導入された条項であって、それまでのCBD締約国の会議の場では全く話し合われていなかった。このため、2016年に開催される名古屋議定書第2回締約国会合(COP-MOP2)が初の全体的な交渉の場となるため、必ずトピックの一つになるであろうことが想定された。
まず、名古屋議定書の中で、何故GMBSMが問題となるのか、その根底に何が問題としてあるのか等、理解の土台となる状況を解説し、続いてJBAとしては「GMBSMが必要な状況は見いだせていない」というポジションであること、次に第10条の議論の最近の動向を紹介した。
「最近の動向」では、利害関係者からの「見解提出」の要約、次にその見解を基に開催されたGMBSMの専門家会合の結果が報告された。その結果は比較的リーズナブルな見解に思われたが、当該専門家会合への参加者が少なかったため、COP-MOP2では予断を許さない旨で締めくくられた。
 
3.「生物多様性条約での合成生物学の議論-第20回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA20)での議論を中心に-」
 製品評価技術基盤機構(NITE)の藤田技監から、CBDの新規緊急課題として検討されている「合成生物学」についてSBSTTA20で行われた議論を基に報告が行われた。なお、本SBSTTAの中では共通した「合成生物学」の概念がないまま議論がすすんでいるが、まず一般的な研究者が考える合成生物学が紹介され、その上で、CBDに勧告を行うSBSTTA20の議論の結果が紹介された。
 現段階の主な論点である、①運用上の定義、②合成生物学の議論に組成物や生産物を含め、CBDの3つの目的に照らして正負の影響を議論すること、③CBDの新規事項に該当するかどうか、デジタル配列情報がABSに与える影響、④社会的な配慮、⑤リスク評価ガイダンスの開発、についての結果が報告された。
 CBDは資源へのアクセスを前提とする、素材ありき、の条約だが、「情報」は素材ではない。CBDを越えた議論をどうCBDの中で議論するのか、次回及びそれ以降の交渉において大きな台風の目となることは間違いない。
 
4.「国連海洋法条約の下での海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する議論の動向-国連海洋法条約の下での国家管轄圏外海域の海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する法的拘束力のある国際文書の策定に関する第1回準備委員会-」
 JBA野崎からは、ABSに関連し得るトピックとして、第69回国連総会にて決定された国連海洋法条約(UNCLOS)における国家管轄圏外海域の海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する法的拘束力のある国際文書の策定に関する議論について紹介した。
 第69回の国連総会、決定129においては、公海および深海底における法的拘束力を持つ国際文書(新協定)を策定すること、その国際文書の要素を検討するための準備委員会(PrepCom)をUNCLOSの下に設置すること、その議論を2017年末までに終了し、次の国連総会に勧告案を提出すること、とされた。世界で6番目に大きな排他的経済水域をもつ日本は、公海及びその深海底を探索できる世界で数少ない海洋活動が可能な国である。JBAは、この国際文書の如何によっては、研究活動及び将来の企業の研究開発の障壁になる、という意識から、この議論に注目している。特に注視しているのは、公海およびその深海底にある遺伝資源(BBNJ)の利用から得られる利益の配分の議論である。
 セミナーでは、2016年3月28日から4月11日に開催された第1回目のPrepComの内容を紹介し、対立軸としては、開発途上国・新興国と主に日本・米国・ロシアとの間に、後述する主な論点での意見の乖離があり(数では圧倒的に不利)、環境優先を前面に出すEUという構造であること、主な争点としては、「人類共通の財産」か「公海の自由」のどちらをBBNJに適用するのか、BBNJの範囲、BBNJへのアクセスを規制するのか、利益配分をどうするのか、等であることが解説された。特に、「人類共通の財産」か「公海の自由」は、一番の争点であり、前者であればすなわち、BBNJから得られた利益(便益)は、全世界で配分するということになり、そちらが通ってしまえば、アクセス規制、利益配分率、配分方法、などの話が一気に進むことになる。まだまだBBNJの開発という段階には至っていない現在、制度を設けることが人類に益となるのかどうか、利害関係者は政府への積極的な意見具申が望まれることが最後に述べられた。
 ABSの議論は、このBBNJのみならず、世界保健機構や、食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約でも同様の展開が見られていることから、日本のユーザもこの情報を共有し、積極的に日本政府に意見や助言を行うべきであることを結びとして講演を締めくくった。
 
最後に主催者から、本日の趣旨と参加への謝辞が述べられてセミナーは終了した。

以上



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