CBD/ABSセミナー
「COP13及びCOP-MOP2報告会」
日 時 :平成29年1月27日(金) 15:00〜17:15
場 所 :JBA会議室
プログラム
- 開会ご挨拶
経済産業省 商務情報局 生物化学産業課 谷室長 - COP13&COP-MOP2 全体概要
JBA 井上 歩 - COP13&COP-MOP2 個別議題
(1)名古屋議定書第10条の文脈で見た「合成生物学、デジタル塩基配列情報」の議論
JBA 井上 歩
(2)CBD伝統的知識(8j)、ABSクリアリング・ハウス、遵守、議定書の評価及び見直し
JBA 野崎恵子
(3)「NGOsの先制攻撃-COP13(カンクン)のサイドイベントから」
JBA 炭田精造
- 質疑応答
- 名古屋議定書国内措置(案)とパブリックコメントについて
環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性施策推進室 中山室長補佐
内容:
2016年12月2日〜17日に、メキシコ・カンクンで、生物多様性条約第13回締約国会議(COP13)、カルタヘナ議定書第8回締約国会合(MOP8)及び名古屋議定書第2回締約国会合(MOP2)が開催された。本セミナーでは、COP13とMOP2の中から、JBAが注目する議題について報告がなされた。3.COP13&COP-MOP2 個別議題
(1)名古屋議定書第10条の文脈で見た「合成生物学、デジタル塩基配列情報」の議論
冒頭の全体概要の説明に続き、今回の会合で最大のトピックとなった、COP13での合成生物学の議論とそこから派生したデジタル配列情報の議論、ならびにMOP2での名古屋議定書第10条、地球規模の多国間利益配分の仕組み(Global Multilateral Benefit-sharing Mechanism:GMBSM)の議論が紹介された。合成生物学に関しては、事前の決定(案)において、①運用上の定義、②社会経済上の配慮、③遺伝資源に関するデジタル配列情報の使用、という3つの争点があり、COP13の場においても熱心な議論が交わされた。特に③に関しては、名古屋議定書MOPの場での議論を望む途上国側と、それに慎重な先進国との間で議論が対立したが、最終的には、CBD及び名古屋議定書のいずれにも関係する問題であることなどから、合成生物学とは切り離し、CBD及び名古屋議定書のそれぞれの場で議論するという内容の決定が採択されることとなった。
2つ目の、GMBSMに関する議論では、アフリカ連合を代表するナミビアやその他のいくつかの国がGMBSMの必要性を強く主張した。具体的には、PICの付与又は取得が不可能な場合として、ex situコレクションの遺伝資源の利用及びデジタル配列情報の利用を挙げ、特に、デジタル配列情報の利用については、「デジタル配列情報の利用が急速に広がっており、GMBSMによる利益配分への対応が、早急に必要である」というものであった。
これに対し、EU、スイス、インド、ノルウェー、ペルー、ニュジーランド、日本等は、名古屋議定書の下では2国間のアプローチが主であること、情報は対象でないこと、名古屋議定書の実施に関する経験が十分でないこと、等を挙げ慎重な対応を求めた。
議論は、先の合成生物学の下でのデジタル配列情報の議論とも重なり紛糾を極めたが、最終的には、締約国等に対し関連情報の提出を求め、その情報に基づき検討を継続することを主な内容とする決定が採択された。
これらの報告の後、演者からは、遺伝資源に関するデジタル配列情報の使用、及び、ex situコレクションの遺伝資源の新たな利用に関する議論が始まったことについて、これらは、CBD及び名古屋議定書の枠組みを越えるものであり、今後の国際交渉の推移に注意し適切に対処すべきであるとして、注意喚起が図られた。
(2)CBD伝統的知識(8j)、名古屋議定書ABSクリアリング・ハウス、遵守、議定書の評価及び見直し
1) 伝統的知識(第8条j項)伝統的知識に関する議題は、中に5つの議題を包含していた。このうち最大の議題は、「TKのアクセス及び生物多様性の保全及び持続可能な利用のためにそれらの利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分、並びにTKの不法な適用を報告し、防止するため、先住民族及び地域社会の“[自由な、]事前の情報に基づく同意”[又は”承認又は関与“]を確保するための仕組み、法令、その他の適切なイニシアティブを策定するための任意ガイドライン」(以下、「F-PICガイドライン」という)であった。
この議論の背景には、伝統的知識に関する主要な利害関係者として、各締約国の他に、先住民族及び地域社会(Indigenous peoples and local communities:IPLCs)(以下、先住民族等)※ がおり、生物多様性の保全と持続可能な利用というCBDの目的において、彼らの伝統的な知識、工夫、慣行に対し一定の役割が与えられているということがある。しかしながら、主権的権利を有する締約国政府と先住民族等の利害は一致しない場合もあり、この議題は常に国内問題を内包しているとも言える。
このような背景の下、今回は、本ガイドラインの策定に当たり、「Free」という文字(この意味は、圧力や操作、脅迫、強制を受けていない状態を指す)を付すかどうか、ABS手続きに関する先住民族等の関与の度合い、「国内法に従い」という文言を挿入するどうか、が争点となった。議論は、最終日までもつれ込んだが、結局、「国内法に従い」という文言を入れることにより締約国の裁量の余地を残した上で、「PIC」、「Free PIC」、「承認及び関与」が残されることとなった。また、決定(案)の段階では、余りにも長かったタイトルも、開催地のマヤ語の名前がついた短い主タイトルと、長い修飾語の部分をサブタイトルとして付すという形に落ち着き、最終日の全体会合で採択された。このガイドラインを国内法に組み入れるかどうか、等は国の裁量に任されているので、利用者はいままで通り国内法に従うというのが大原則である。
伝統的知識に係わる他の議題としては、「第8条j項で用いられる関連キーターム及びコンセプト用語集」と、「生物多様性の保全と持続可能な利用に関連した先住民族及び地域共同体の伝統的知識の還元に関するRutozolijifisaxik任意ガイドライン」があったが、これらについては作業を継続し、COP14以降の決定に持ち越されることとなった。
2)名古屋議定書第30条「議定書の遵守」
遵守委員会提案のルール(案)は、①利益相反の対象に委員だけではなくIPLCsを入れること、②電子的手段を通じて行われる決定から遵守及び不遵守に対処する場合を除外する、という2点に修正が加えられ採択された。
3)名古屋議定書第31条「議定書の評価と見直し」
議定書には、発効から4年後に第1回目の議定書の評価と見直しを行うことが規定されている。今回の会合では、この第1回目の評価について、何を(要素)、どのように、評価するかについて検討され、議定書実施補助機関(SBI)が要素及び検討に必要な情報を検討し、次回締約国会合に対する勧告案を作成することが決定された。
4)名古屋議定書第14条「ABSクリアリング・ハウス(ABS-CH)」
この議題に関し、JBAが注目していたのは、議定書に記載のないABS-CH「チェックポイント・コミュニケ(CCP)」の機能であった。JBAとしては、そこに、議定書の規定にはない「提供国による利用者のモニタリング」に関する仕組みが入ってしまうことを懸念していたが、結果的にそこには触れられず、現状のABS-CHの運用の問題点等が取り上げられただけであった。
決定には、事務局によるABS-CHの推進と支援活動を歓迎し、優先順位を付け利用性の向上と情報の増加を図り、国連6カ国語での運用が要請された。また、まだ利用が十分でない実態を踏まえ、会議の場で言及された様々な意見については更なる追加経験の必要性が認識された。さらに、提供国による ”International Recognized Certificate of Compliance (IRCC)”の更なる掲載、非公式助言委員会の開催とMOPへの報告、議定書の評価と見直しの際にABS-CHも見直すこと、等が含まれて採択された。
最後に、演者からは、我が国の名古屋議定書国内措置(案)においてもABS-CHが重要な役割を担っていることが紹介された。我が国の措置(案)の対象範囲は、名古屋議定書の締約国のうちABS-CHに提供国法令を掲載している国であり、海外遺伝資源を直接取得してきた取得者が、IRCCのUnique Identifier(固有識別記号)を記載し、国に報告することになっている。また、他にも、ABS-CHには提供国の当局や担当者が掲載されていることが紹介された。
※ COP12及びMOP2より”Indigenous and local community(ILC)”から変更。但し、意味上の変更はない。
(3)「NGOsの先制攻撃-COP13(カンクン)のサイドイベントから」
COP13及びMOPの期間中、会場周辺で非公式ワークショップ (サイドイベント)が開催され、各国政府、国際機関、非政府組織(NGOs)等らが、自らの主張や、調査研究のレポート、多様性の紹介などを行っている。ここに参加することで、本会議場よりも具体的な意見や主張を聞くことができ、将来の議論の方向性に関するヒントを得たり、ネットワークが構築できることから、重要な情報源となっている。今回は、多くのサイドイベントで取り上げられていた以下の2点について、先進国に対して批判的なNGOsの見解をまとめて炭田が紹介した。1) EU規則の適用範囲vs. NGOsの主張する「新しい利用」のコンセプトの適用範囲
名古屋議定書では、遺伝資源の合法取得の確認及び利用のモニタリングが規定されている。そのため、EU規則では、利用者が遺伝資源(GR)および遺伝資源に関連する伝統的知識(ATK)を「いつ取得したか」が重要である。他方、NGOsが主張する「新しい利用」のコンセプトでは、利用者がGRおよびATKを「いつ利用したか」が重要である。すなわち、GRおよびATK を過去に入手していたとしても、議定書(or 提供国の国内法)の発効後に「新しい利用」をすれば利益配分の適用対象になる、というものである。 生息域外コレクション(例、植物園、ジーンバンク、カルチャーコレクション等)にあるGRの多くはこれに該当する、とNGOsは主張している。
2) NGOs の「デジタルDNA情報 のバイオパイラシ-論」で先制攻撃
COP13でのサイドイベント等では、NGOsが連携して「デジタルDNA情報 のバイオパイラシ-」というキャッチフレーズを掲げプロパガンダ攻勢を一斉に行った。そこでの彼らの主張をまとめると、①CBDや名古屋議定書等の既存の枠組による「遺伝資源へのアクセスと利益配分」の原則にとどまることなく、②「DNA情報へのアクセスと利益配分」を義務化する新制度(例、補足議定書) の策定を目指した国際交渉に持ち込み、③名古屋議定書(第10条)の下で、その策定を実現させ、④その成果を、食料・農業(ITPGRFA)、公衆衛生(WHOのPIP枠組み)等、その他の分野に及ぼして行く、というNGOsと途上国の戦略的発想が浮かび上がってくる。
最後に演者は、日本のバイオ産業界は、CBDのABS原則を誠実に履行することに過去20年にわたって務めて来た。名古屋議定書を批准した後も同様な努力をするであろう。我々は誠実な実施を重要視している。現時点で、このような議定書の実施経験を踏まえないNGOsの主張に対して、彼らと同じレベルで過剰な反応をするのは賢明でないだろう。我々としては、「そもそも生物多様性条約の目的は何か」という原点に立ち戻り、CBDのABS原則を再確認し、今後の議論を条約(議定書)の枠内にとどめる確固たるスタンスを堅持するのは当然であろう、と結んだ。
5.名古屋議定書国内措置(案)とパブリックコメントについて
平成29年1月20日に開始された、「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針(案)」に関する意見募集(パブリックコメント)について、環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性施策推進室 中山室長補佐に解説頂いた。これは、名古屋議定書の国内措置として策定されたものであり、措置は、この指針が発効した後にABS-CHに掲載された名古屋議定書の締約国である提供国法令に則り、直接現地からPICを取って日本に持ち込んだ取得者が、ABS-CHに当該IRCCが掲載された後、その固有識別記号を環境大臣に報告することを主としており、それ以外にも本人の希望に応じ報告することができる仕組みを設けている。更に、数年後に届出から任意に抽出された利用者に対し、遺伝資源の利用に関する情報の提供を求めるというスキームである。報告あるいは提供された情報は利用者が希望しない情報を除き、国際クリアリングハウス(ABS-CH)に提供され、環境省のウェブサイトに掲載される。
提供国措置は現時点では設けない。
今後の予定では、閣議を経て、国会に掛けられ、そこで名古屋議定書批准の承認が得られれば国連に寄託され、90日後に名古屋議定書締約国となる予定とのことである。
<質問・意見>
- 指針(案)の第3章第4や5で規定されている「契約の条項のひな形」や「行動規範」、「指針」、「最良の事例」等の作成には環境省が協力してくれるのか?
(回答)各省の関係機関(JBA、遺伝学研究所ABSチーム、等)が協力する場合があるかもしれない。 - 今回の措置で、第1章第3の適用範囲にあるとおり「核酸の塩基配列等の遺伝資源に関する情報」は、対象でないという話であったが、本日のセミナーの内容からすると、今後これを対象にするような交渉が行われていくようである。日本が締約国となることでこの議論に参加することになると思うが、日本政府としてはどう対応していくのか?
(回答)締約国となることでオブザーバではなく、発言権をもって交渉に参加できるようになる。名古屋議定書の範囲は情報には及ばないため、日本政府としてこの方針に変更はない。 - 本案は指針であり、罰則もない、ということでよいか?
(回答)指針ではあるが、書類の提出はして頂きたい。罰則はない。 - 日本も強い交渉力を持つために交渉官の教育が望ましいと思う。