フィリピン
基本情報
(2020.3 更新)生物多様性条約には1993年10月8日に批准、名古屋議定書は2015年12月28日に締約国になった。
ABSクリアリング・ハウスには、法令等は掲載されていないが、ABS National Focal Pointが指定されている。
フィリピンではCBDに対応して、あるいは関連して整備された上記法制度はそれぞれその実施のための機関を規定している。すなわち、国立統合保護地域制度法の実施機関として、環境天然資源省(The Department of Environment and Natural Resources: DENR)は保全すべき地域の特定とその管理を担当する。
生物資源アクセス規制に関わる野生生物資源全保護法とその実施規則、そしてフィリピンにおけるバイオプロスペクティング活動に関するガイドラインは、環境天然資源省(DENR)と農業省(The Department of Agriculture: DA)の部局が、それぞれの管轄に応じ実施し、申請手続の審査、関係者への説示、許可発給、監視等を行う。
パラワン州では持続可能な開発パラワン州委員会(The Palawan Council for Sustainable Development:PCSD)も関与する。先住民に関わる場合には、下記の国家先住民問題委員会(NCIP)も関与する。
先住民権利法の実施に関しては、先祖伝来領域、先祖伝来地権限証明書の発行機関として国家先住民問題委員会(NCIP)の設置を規定しており、この機関に国内外の各種資金源からの助成金等の受領管理の権限まで付与しており、このような形で資源アクセス者と原住民との間の関係に国家を介在させている。
フィリピンは生物多様性条約(CBD)実施のために、その目的の一つである生物資源へのアクセスに関連する規制措置として、1995年に大統領令第247号、その施行規則として翌年に環境天然資源省行政令第96-20号を制定し、世界に先駆けていち早く生物多様性条約に基づく生物資源アクセス規制を導入した。
その後、これらの制度は見直しされ、大統領令第247号は現行法と抵触する規定について廃止、環境天然資源省行政令第96-20号は全面的に廃止された。
現在、主に次の4つの国内法を整備している。
- 「国立統合保護地域制度法(共和国法第7586号)」 (National Integrated Protected Area System Law(NIPAS),Republic Act No. 7586)
- 「野生生物資源とその生息地の保全及び保護、並びにそれらの保全及び保護その他の目的のための予算割当について定める法律<野生生物資源保全保護法>(共和国法第9147号)」(An Act Providing For the Conservation and Protection of Wildlife Resources and their Habitats, Appropriating Funds therefore and for Other Purposes (Wildlife Resources Conservation and Protection Act), Republic Act No.9147))
- 「フィリピンにおけるバイオプロスペクティング活動に関するガイドライン(2005年DENR-DA-PCSD-NCIP行政令第1号)」(Guidelines for Bioprospecting Activities in the Philippines, Joint DENE-DA-PCSD-NCIP Administrative Order No.1,Series of 2005)
- 「先住民権利法(共和国法第8371号)」 (The Indigenous Peoples Rights Act of 1997, Republic Act No. 8371)
フィリピンにおける「バイオプロスペクティング活動」(商業目的)と、生物資源に関する「科学研究」(非商業目的)はいずれも許可制である。特に、「バイオプロスペクティング活動」(商業目的)については、上記の「フィリピンにおけるバイオプロスペクティング活動に関するガイドライン(DENR-DA-PCSD-NCIP行政令第1号)」の規定に従って許可を得る必要がある。「科学研究」(非商業目的)の許可手続は、野生生物資源保全保護法の実施規則の第15規則に従う。
「バイオプロスペクティング活動」(商業目的)の許可申請先は、管轄に応じ、漁業水産資源局(BFAR)、保護地域野生生物局(PAWB)、持続可能な開発パラワン州委員会(PCSD)、又はこれらの地域事務所(権限を付与されている場合)である。
許可は農業省大臣、環境天然資源省大臣のいずれか又は双方とバイオプロスペクティング協定を締結することで与えられる。パラワン州で実施する場合には、持続可能な開発パラワン州委員会議長の連署も必要である。許可申請料は、500フィリピン・ペソである。
許可申請手続の過程で、遺伝資源提供者(先住民、保護地域管理委員会、地方自治体、私人、関係機関等)からも、ガイドライン所定の方法に従って、事前情報に基づく同意を取得し、利益配分について交渉の上で合意することが求められる。また、資源アクセス/サンプル採集に際して、その採集場所が先住民権利法でいう「先住民族の先祖伝来領域」、「先祖伝来地」にあたる場合には、先住民からの自由かつ事前情報に基づく同意(FPIC)を取得するための交渉も必要となる。
CBD/ABS関連法令
(2013.2 掲載)1)国立統合保護地域制度法
1992年6月に制定されたこの法律は、希少かつ危険にさらされている動植物種が生息する顕著な地域ならびに生物学的に重要な公用地の保護を目的とし、フィリピン国内の保護地域の確定と管理を規定する。このようなNIPASの規定内容には、遺伝的多様性の保全も含まれる。また、保護地域の分類に関しては、International Union for Conservation of Nature (IUCN)のそれにしたがっている。NIPAS自体はCBDに先立って制定されたものではあるが、CBD起草作業においてイニシアティヴを取っていたIUCNが、NIPASの制定にも関与していたことを考慮すると、NIPASとCBDとの間には関係があるものと思われる。1992年の制定以来26の地域がNIPASの適用を受けている。また、生物資源アクセス規制を定める野生生物資源保全保護法や、バイオプロスペクティング活動に関するガイドラインの地理的適用範囲にはNIPASの保護地域が含まれる旨が明示的に規定されている。
2)野生生物資源保全保護法
フィリピンにおける野生生物資源とその生息地を持続可能に保全することを目的として、2001年に制定された。生物資源アクセス規制のみを扱う法律ではなく、フィリピンにおける既存の野生生物関係の法規則を見直し、法典化を図ったものである。
生物資源アクセス規制を直接規定するのは第14条と第15条のみであるが、「バイオプロスペクティング活動」(商業目的)の許可制と、生物資源に関する「科学研究」(非商業目的)の無償許可制を定めており、フィリピンにおける生物資源アクセスのPIC制度の基礎を成す。また、無許可採集に関する罰則が定められており、生物資源アクセスに関連する制裁制度の一翼を担っている。
2004年に実施規則(2004年DENA-DA-PCSD行政令第1号)が制定されており、特に「科学研究」(非商業目的)の場合の手続は、当該第15規則に従う。
3)フィリピンにおけるバイオプロスペクティング活動に関するガイドライン
フィリピンにおける商業目的の生物資源アクセス規制手続を包括的に規定している現行制度である。2005年に生物資源アクセスに関連する省庁の共管行政令として制定された。
このガイドラインの適用対象は、商業目的に限定して定義された「バイオプロスペクティング」であり、非商業目的の「科学研究」には適用されない。「バイオプロスペクティング」には採集だけではなく、生物資源及び遺伝資源の研究、採集及び利用が含まれる。
フィリピンの全ての地域で実施される「バイオプロスペクティング」(商業目的)は、本ガイドラインの手続に従い許可を得る必要がある。所管大臣との間でバイオプロスペクティング協定(Bioprospecting Undertaking:BU)を締結することで許可を得る点が特徴的である。
また、本ガイドラインは、国が許可を与える前に、資源提供者からもPICが取得され、利益配分されることを確保する旨を基本政策としており、許可申請手続の過程で、資源提供者と交渉してPICを取得し、利益配分条件に合意することが要求される。そのための交渉手続や、資源提供者からのPIC証明書式、国及び資源提供者への利益配分の最低条件などもガイドラインの規定に従う必要がある。資源提供者との合意もBUに含められる。
BU規定違反は、BUの解除・取消し、採集素材等の没収、アクセス永久禁止、行政上・刑事上の制裁といった厳しい罰則が定められており、違反行為は国内外に公表される。遵守監視の観点から、年次進捗報告や遵守証明書の提出が義務付けられている。
4)先住民権利法<
1997年7月にフィリピン共和国法第8371号として可決制定されたこの法律は、CBD第8条j項に規定される「原住民、地域社会の伝統的知識の保護」を目的とした法制の整備である。その意味でCBDとの整合性が図られている。とりわけ、伝統的知識の保護に関して、先住民文化社会内の先祖伝来の土地や領域で行われる生物遺伝資源の調査は、関係地域社会の慣習法にしたがって得られた当該地域社会の事前の情報に基づく同意を得てはじめて許可されるものであるとして、PIC条項も規定されている。
この法律の特徴は、「先祖伝来領域」「先祖伝来地」という概念をもって、土地ならびに領域と原住民との結びつきを規定しており、このように、土地、領域という概念を介在させることにより先住民の法的地位を確保している点にある。
上記4つの国内法は相互に関連しており、不可分の関係にある。また、CBD実施のための措置としての国内法整備という観点からみるならば、上記4つの法制度に限定されない特許関連法制度、例えば「伝統的及び代替的医薬品法」等との関連も検討されなければならないであろう。
その他情報
(2013.2掲載)1.過去の調査、報告、2国間ワークショップ
- 平成17年度 報告書資料より
「フィリピンのアクセス及び利益配分規制の進展」